経済成長とは?日本が経済成長しない理由と今後の影響を解説

以下のオプションを通じて、日本の経済状況とその将来の影響について詳しく知ることができます。

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ほかの先進国の経済は着実に成長するなか、日本だけが長期停滞しています。技術進歩による質的向上が先進国の成長の源泉です。成長できなければ賃金が上がらないため、日本人は相対的に貧しくなり、今の生活水準を保てま。

1.経済成長とは

経済成長は、SDGs目標8「働きがいも経済成長も」の達成に大きく関わっています。そのなかで、ターゲット8.1「一人当たり経済成長率を持続させる」、ターゲット8.4「経済成長と環境悪化の分断」が挙げられています。

経済成長が環境負荷の増加につながってしまっては、長期的な経済成長の持続が困難になるため、経済成長と環境悪化の分断を図ることも重要になります。

ほかにも目標1「貧困をなくそう」、目標2「飢餓をゼロに」、目標3「すべての人に健康と福祉を」を達成するには、経済成長し、豊かになることが不可欠です。さらに、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」は経済成長の源泉に、目標13「気候変動に具体的な対策を」は経済成長が好調な先進国ほど対策が進んでいます。

(1)経済成長とは

経済成長とは、経済全体の国内総生産(GDP)が持続的に上昇することです。

経済全体とは、日本国内での経済活動すべてを指します。GDPとは、1年間に経済全体でおこなった経済活動の合計額のことです。

なお、GDPは生産した製品や提供したサービスが生み出した付加価値を合計します。付加価値は、製品やサービスの販売価格から、原材料などのコストを引いたものです。付加価値は、製品などの生産数が増えたり、新機種の販売価格が以前の機種より高くなったりすることで上がります。

GDPの上昇率を経済成長率といい、1年前と比較して同じ経済活動で生み出した付加価値の合計額が多ければ、GDPは増加するため、経済成長率はプラスになります。すなわち、持続的に経済成長率が上昇している場合は、経済成長しているといえます。

(2)経済成長が必要な理由

国民の収入を上げ、長期的に豊かな生活を送るためには、経済成長が必要になります。

GDPには三面等価という性質があり、GDP=GDI=GDEが成り立ちます。なお、GDIは国内総所得、GDEは国内総支出のことです。

三面等価の関係図

企業は、付加価値をもとに、社員に給料を支払い、残った金額から配当金や借入金などを支払います。

国外とのお金のやり取りを除くと、企業から給料や配当金、銀行から利子を受け取るのはいずれも日本国民になります。したがって、付加価値の合計は国内の所得に反映されるため、GDP=GDIとなります。

また、国民は受け取った所得をもとに製品やサービスを購入します。すぐに使わず貯蓄した場合は、銀行や株式市場を通じて資金を借り受けた企業が支出します。したがって、所得と支出の合計は同額になるため、GDI=GDEとなります。

経済成長できなければGDPが上がらないため、収入の合計であるGDIも上がりません。収入が上がらなければ、製品やサービスを購入する支出を合計するGDEも上がりません。つまり、国民の生活水準を上げるためには、経済成長が必要といえるのです。

(3)日本と世界の経済成長

G7各国の1人当たりGDP

G7各国の1人当たりGDP(USドル)|International Monetary Fund, World Economic Outlook Database, October 2023をもとに筆者作成

1990年代以降、日本のGDP(1人当たり)は停滞しています。一方、欧米などほかの先進国のGDP(1人当たり)は、長期的に年平均2%程度上昇しています。つまり、日本はほかの先進国と比較して、相対的に貧しくなっているということです。

①日本の経済成長

1991年にバブル経済が崩壊して以降、日本の一人当たりGDPは停滞しており、それが直近まで続いている状態です。

日本のGDPは明治維新(1868年)から第2次世界大戦(1940年代前半)まで少しずつ増加していました。

第2次世界大戦によって一時的にGDPは大きく下落しますが、その後は高度経済成長期となり、日本の経済は10%前後という非常に高い率で成長します。この時期に、日本の経済成長率は欧米などの先進国に追いつく勢いがありました。

しかし、1973年のオイル・ショック(石油価格の急激な値上がり)により、原材料価格が高騰し、日本経済の成長率は低下します。

1980年代にバブル経済と呼ばれる好景気があり、1990年ごろまでほかの先進国以上に成長しましたが、1991年のバブル経済崩壊以降、経済成長率はゼロに近い数字が続いています。

②世界の経済成長

経済成長を続ける欧米の先進国は、19世紀初めごろから着実に経済成長が続いています。とくに米国の経済成長率は、1870年ごろから約150年間、2%(1人当たり)程度で安定しています。

また、かつて発展途上国と呼ばれていたアジア各国のGDPも上昇しています。日本の成長が1990年代以降停滞している間に、台湾や韓国のGDP(1人当たり)はほぼ日本に追いついています。

なお、GDPの数字はGDIと同じになるため、台湾や韓国における収入(1人当たり)も日本に追いついていることになります。

2.日本が経済成長しない理由

日本が経済成長しない理由は、主に三つあります。

理由概要
設備投資の停滞生産数が減少、また、付加価値の高い製品を製造できなくなった
少子高齢化労働力人口の減少によって、生産能力が低下した
技術進歩の停滞他国が付加価値の高い製品を開発しているなかで、日本は製品開発に苦戦している

日本が経済成長しない理由として、設備投資の停滞が挙げられます。設備投資の停滞は設備の性能不足や老朽化につながり、生産数が減少したり付加価値の高い製品を製造できなくなったりするため、GDPが増加しづらくなります。

製品やサービスを生産するためには、設備(経済学では資本という)と労働者が必要です。設備には多くの費用がかかり、一度設備を設置したら長期間使い続けます。

そのため、多くの企業は銀行から設備投資の資金を借り入れ、その設備によって生み出された利益をもとに借入金を返済します。バブル経済時は、多くの企業が設備投資をしたことで経済成長してきましたが、バブル崩壊によって借入金を返済できなくなり、不良債権となりました。

不良債権は銀行を倒産させるリスクがあることから、銀行は新たな貸し付けを減らしました。企業も不良債権を減らすため、新たな借り入れを避けたことで設備投資が停滞したのです。

(2)少子高齢化

製品やサービスを生産するためには、設備だけでなく労働者も必要になります。しかし、日本は少子高齢化によって労働力人口が減少しており、生産能力が不足しています。

とくに、日本は先進国においてもっとも高齢化比率が高い国です。少子化によって人口が増加しないだけでなく、高齢化によって現役世代の割合が減少していることが日本の経済が成長しない原因になっています。

(3)技術進歩の停滞

日本が経済成長しない大きな理由として、日本の技術進歩の停滞が挙げられます。

バブルの崩壊や少子高齢化は他国でも起こっていますが、先進国のなかで30年以上経済成長がゼロに近いのは日本のみです。

経済成長には、より多くの製品やサービスを提供する「量的な増加」と、製品やサービスの付加価値を上げる「質的な増加」が必要になります。

日本の成功体験である高度経済成長期には多くの労働者や設備投資によって、大量生産で経済成長してきました。しかし、少子高齢化になり労働力が不足する現代では、そのような成長は困難です。

現在、ほかの先進国は主に質的な上昇によって経済成長しています。一方日本は、スマートフォンやネット関連サービス、人工知能(AI)などの先進技術で後れをとったことで、付加価値の高い製品やサービスを提供できずに、経済成長が停滞しています。

3.経済成長しなかったときの今後の影響

日本が、今後も経済成長しなかったときの影響は主に二つあります。

影響概要
生活水準が下がる賃金が上がりにくいため、商品の値上がりによって購入できる量が減ったり、質の低い製品を選択したりすることになる
人材不足が加速する賃金の低い日本で働きたい技能実習生や海外の高度人材が減るとともに、日本の高度人材の海外流出が増える

経済成長が停滞すると賃金は上がりにくくなるため、生活水準を上げられません。むしろ、他国が成長している現状において、日本人の生活水準は相対的に下がっていきます。

日本は石油や食料など、多くの資源を海外に依存しています。同じようにこれらを必要とする他国や資源輸出国が経済成長している場合、取引価格が上昇する可能性があります。

取引価格が上昇しても、経済成長している国では賃金が上がっているため、生活水準を維持できるだけの数量を購入できます。

しかし、日本のように経済成長が停滞し、賃金が上がっていない場合は、商品の値上がりによって購入できる量が減少します。実際に食品関係の販売価格は、値上がりや小容量化(実質値上げ)が進んでいます。

このまま経済成長の差が開き、賃金が上がらなければ、購入量を減らしたり質の低い製品やサービスを選択したりせざるを得なくなり、生活水準が下がることになります。

(2)人材不足が加速する

日本の経済成長が停滞しているあいだに、ほかの先進国や新興国は着実に経済成長しています。その結果、技能実習生や日本で働きたい海外の高度人材の減少、日本人技術者の海外流出が加速するでしょう。実際、ほかの先進国と日本人の賃金格差は広がっています。

これまで、人手不足を解消するために技能実習生として東南アジアの人材を活用していましたが、技能実習生の立場から見て今の日本の給料は高くなく、ほかの先進国のほうが魅力的です。人手不足が深刻化している介護や運送などの分野で、海外人材を得ることが難しくなり、これらの分野の人手不足の解消は難しいでしょう。

経済成長している米国では、世界の技術進歩を先導するシリコンバレーに世界中の多種多様な技術者が集まり、コンピュータや人工知能(AI)など最先端の技術を開発しています。一方、日本は賃金が上がらなければ高度人材を集められず、日本の技術進歩の停滞は一層深刻になります。

4.経済成長に必要な三つの要素

(1)技術進歩

技術進歩は、経済成長を促進させる重要な要素の一つです。

経済成長している先進国は、生産数を増やす量的な拡大ではなく、質的な付加価値の向上に取り組んでいます。今後日本が経済成長するためには、同様に研究開発を促進して技術進歩を進めることがもっとも重要だと考えられます。

質的な付加価値の向上のためには、新技術や新製品の開発が重要になります。1990年ごろまでは、日本製の家電製品などは高品質として世界で評価されていましたが、現在は限られた分野でしか日本企業の技術は世界を先導しているといえません。

ナンバーワンになってこそ、大きな付加価値が得られるため、グーグルやアップル、アマゾン、テスラのように、それぞれの分野で世界を先導する企業が日本から出ることが求められます。

(2)生産性

少子高齢化で労働力人口が減少するなか、経済成長するには生産性を高める必要があります。そのためには、労働者のスキルや知識を高める教育や人材育成が不可欠です。

生産性の低い職場は仕事の質を上げるのではなく、労働時間を増やすことで解決しようとすることが多くありますが、その方法では職場環境が悪化し続け、生活水準の低下にもつながります。また、労働環境が悪化すれば、労働者がますます集まらなくなるでしょう。

たとえば、生産性を高めるためには情報技術やAIなどを使いこなし、従来の仕事のやり方を変えたり、不要な仕事を排除したりできる人材が求められます。このほかに、世界を先導する技術や製品を開発するためには英語力も必要でしょう。

(3)チャレンジ

新技術の開発には、必ず不確実性があります。そのため、高い目標を達成するにはチャレンジが求められます。成功できることがわかっている開発は、小さな改良に過ぎず、大きなイノベーションにつながりません。

米国では何千何万というベンチャー企業が出てきていますが、その多くが廃業しています。しかし、そのなかでも生き残っている企業の多くは技術革新に成功し、米国の経済成長を支えています。

一方日本は、大学生の就職人気企業の上位が約30年間ほとんど変わっていません。つまり、世界を先導する新しい企業が日本で育っていないのです。

さらに、日本では不確実な目標にチャレンジして、失敗することの代償が大きすぎるという状況があります。そのため、チャレンジが報われる社会をつくることが重要といえます。5.経済成長に関する経済政策

経済成長するための経済政策は数多くありますが、そのなかでも重要な三つをご紹介します。

1. 新技術に対する支援
2. 教育に対する支援
3. グリーン技術に対する支援

なお、給付金など需要喚起を狙う経済対策の効果は一時的なものであり、持続的な経済成長は見込めないため、紹介する三つのような長期的な視点が必要になります。

(1)新技術に対する支援

長期的に経済成長するには、より高い付加価値を与えられる技術の開発が重要です。すでに日本でもおこなっていますが、企業が投資した研究開発費用などに対して、補助金や減税などの支援をさらに拡充することが求められます。

開発が成功し技術水準が向上すれば、その企業だけでなく、取引先や産業全体にとって良い影響があります。また、労働者の賃金も向上します。このような社会的なメリットがあるため、多くの国で政府による研究開発支援がおこなわれています。

(2)教育に対する支援

教育への支援は、長期的に経済成長するためには必要不可欠です。しかし、日本の教育予算(GDP比)は、世界的にも低い数字になっています。

経済成長には技術進歩が必要不可欠であり、そのためには労働者のスキルや知識を高める教育が求められます。たとえば、家庭の経済状況にかかわらず、誰でも高度な教育を受けられる支援が必要になるでしょう。

経済全体の成長のためには、労働者も付加価値の高い新産業へシフトしていく必要があります。新たな技術や仕事に必要な知識を学ぶ、リスキリングを政府が支援することも重要です。

(3)グリーン技術に対する支援

複数ある技術開発の方向のなかで、環境性能を高めることも重要になります。

これまでの日本は、より大量に、より低コストに生産することを重視してきました。しかし、大量生産だけでは、多くの資源が必要になり、さらに二酸化炭素(CO2)の排出も増えるため、経済成長と環境保全を長期的に両立することが難しくなります。

温暖化などで環境が悪化すれば、災害の頻発などにより生産インフラの維持も難しくなり、経済成長自身に限界がくることも考えられます。

経済成長と環境保全を両立するためには、技術進歩を環境改善の方向に誘導することが重要です。たとえば、環境性能の高い自動車や住宅に補助金を出したり、化石燃料の使用に炭素税をかけたりすることで、企業にも環境性能を高めようというインセンティブが生まれます。

6.希望のある社会に

経済成長による大量生産社会は、公害などの発生を通じて自然環境を悪化させると世界的に懸念された時代がありました。

そこで、日本以外の先進国は量から質へとビジネスモデルを転換し、経済成長と環境問題の改善を両立しています。

成長の源泉である新技術は付加価値の向上だけでなく、国民の所得を上げ、同時に環境問題も改善します。しかし、残念ながら日本は経済成長が停滞して所得が伸び悩み、環境問題の改善も遅れています。

未来の生活水準と環境もよくするために、新しいことにチャレンジしてみよう、そのような希望がある社会になれるよう願っています。

せん。この記事では、社会経済学研究所の教授が経済成長について解説します。

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